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<過去記事再録>アルコール添加酒について一考 [日本酒]

もう直ぐあのお酒が入荷してきますので、
過去記事を再録します。

<秋晴れに>

「あなたの一番好きな季節は?」と訪ねられたらならば、
少し思案の後、私はこう答えるでしょう。
それは「インディアンサマー」ですと。

晩秋から初冬にかけて、日々少しづつ肌に感じる寒さが増し、
眼に写る風景がうっすらと青みを帯びたような凛としたものになる中で、
時として季節がその歩みをゆるめ、時計の針を逆戻りさせます。
部屋の中へと窓から差し込む陽光に綿埃が跳ね、
手を差し出すと、光のあたる部分から身体中にまで暖かみが広がり、
太陽の破片がゆっくりと指先から血管を伝い心臓まで集められてくるのが解ります。
辺りの景色を覆っていた冷やりとするようなベールが滑り落ち、
春を思わせる穏やかな陽気に包まれ、どこか懐かしいセピア色した空気が漂います。
「小春日和」と、昔の人は上手い具合に言ったものですね。
また、北アメリカに住む原住民が、秋の終わりに冬支度に勤しむ日に、
からりと晴れた陽気な午後の訪れを「インディアンサマー」と呼んだそうです。
そんなぽかぽか陽気となった午後の昼下がりには、窓の外に広がる空を見上げながら、
少し冷やしたにごり酒を飲んで過ごす時間が、私は大好きです。

例えば、安芸虎の「素」は少し炭酸ガスを含んだ活性タイプで、
余韻に乳酸系飲料のような酸味が残ります。

あるいは福光屋のにごり酒「白貴」は純米で仕込まれ、
まったりとした口当たりを持ち、
同じく白川郷のにごり酒も純米仕込み、澱が贅沢に入っています。

ちょっと変わった所では辻本店の「菩提もとにごり酒」があります。

そやし水と呼ばれるものを使って酒毋を立てますが、
この水、“蒸したお米を水につけ込み酸っぱくなったもの”という、
とても奇妙で恐ろしくもあるものです。
奈良県にある菩提山正暦寺というお寺に伝わるお酒の仕込み方法で、
およそ15世紀中頃には行われていたという記述の残る、
今のお酒造りの原型のようなものです。

おっと、こちらを忘れてはなりません。

今年の秋もやって来た新潟県菊水酒造の「五郎八」ですね。
普通酒クラスとはいえ、アルコール度数は高く、飲み応えたっぷり、
でも冷やして飲むと、喉をスイスイと流れ落ちてしまい、
気がつくと腰も立てない程酔っぱらった経験はありませんか。
毎年大人気のこのお酒、根強い年配のファンがいる一方で、
若い飲み手の心もしっかり掴んでいっているようです。
ところが、この「五郎八」、今年から日本酒、あるいは清酒では無くなりました。
造り方は変わっていません。
原材料も同じもの、味も以前とほぼ同じです。
しかし、ボトルに張られたラベルにも記載はされていますが、
商品案内を見るとリキュール類となっています。

2006年5月にあった酒税法改正が、以前のそれと比較して最も評価できる点は、
酒類の上位区分に、醸造酒、蒸留酒、混成酒という三つのカテゴリーを設けたことです。
もっとも、醸造酒の中でもビールや発泡酒を発泡性酒類として醸造酒とは違う区分に
している所は、税収の減少を抑制しようとする意図が見え隠れして、
まだまだ色んな問題点が山積みであるともいえます。
更に、清酒に関しては、原材料である米に対する米以外の原材料の比率を
50%以下としたのは、今更ながらとも言えないわけではないのですが、
清酒を扱うものにとっては非常に好意的に受け止めることのできる改正部分です。
以前から何度か取り上げているアルコール添加に関する問題ですが、
今現在の所私自身は、アルコール添加酒を積極的に否定するわけではありません。
しかし、原材料に使用するものから清酒には以下のカテゴリーのものが
存在しているのが現実です。
米、米麹のみから作られた「純米酒」、
米、米麹、そして醸造アルコール(使用量に制限あり)を用いた「本醸造酒」、
米、米麹、醸造アルコール、糖類、酸味料から造られた「普通酒」、
という三つの分類に分けられるものがあります。
(吟醸酒に関しては精米歩合、つまり減量処理に関わることなので別の問題とします)
また、普通酒の中でも、米、米麹のみから造られた元の純米酒の3倍にまで
薄められたものを、特に「三倍増醸酒」と呼んでやや否定的に区別されています。
このお酒は合成清酒とは言えませんが、
伝統的な酒造りとは随分とかけ離れたあまり褒められたものではない粗悪なもので、
現在これのみで出荷されているような清酒はほとんどなく、
もう少しまともに造られた普通酒とのブレンドに用いられています。
三角でも、四角でもない、あのお酒にブレンドされているのではないか、
と言われていましたが、メーカーに確認した所三増酒のブレンドは無いそうです。
ところが、今回の酒税法の改定により、2倍増醸酒以上に薄められたお酒は、
清酒とは表示できないことになりました。
つまり以前からあった3倍増醸酒のような清酒は、
米以外に使用した原材料が規定以上を越えているので、
麦芽の使用量が規定に満たないビール類が発泡酒類とカテゴリーされるように、
リキュール類として表示しなければならなくなりました。
このような状況に対して、メーカー側の選んだ道は二つに分かれました。
一つは、原材料を変え、酒質やコストの変化はやむを得ないとし、
新しい清酒の規定に適うようなものとしてあくまで清酒表示を貫こうとするもの、
もう一つは、原材料を変えずに以前通りの酒質を維持し、
ラベルへの記載事項はリキュール類を選ぶというもの、
言わば、名を取るか、実をとるかの二つに分かれたわけです。

話を「五郎八」の件に戻しますが、つまりこのお酒、
今回の酒税法の改正を通じて、普通酒にもカテゴリーできない原材料の使用があり、
出来上がった清酒に関して、規定量以上の調合作業が行われているとして、
混成酒類であるリキュール類に分類されているのです。
そのための税率の変更があり、価格も少量ですが値上げとなりました。
ただこのことは次のことに言い換えれる意味を含んでいます。
このお酒を造る菊水酒造さんが優先したのは、消費者の嗜好、支持という部分です。
法律が変わったとしても、原材料を変えず、製法を変えず、酒質を変えず、
結果として与えられる名が代わり、消費者の負担する酒税が多くなっても、
いぜんのままの味を守っていると言えます。
「五郎八」は以前と変わらぬ「五郎八」で有り続けているわけです。
さてさて、市場はどういった判断をするのでしょうね。

これに関連して面白い文章があるので、少し長めですが紹介します。
世界文化社から出ている麻井宇介さんが書いた『酒・戦後・青春』という本からです。

もとメルシャンの技術者として現在の日本ワインの業界に多大の貢献があり、
また文筆家としても多数の酒に関する著作があります。
ちなみに彼の書いた中公新書から出ている『ワイン造りの思想』は、
今の仕事を続けて行く上での私のバイブルでもあります。
その彼の著した『酒・戦後・青春』の第6章166ページの
「三倍増醸酒増石は是か非か」という題目にある文章です。
昭和24年から27年の間の清酒生産量に関するものなのですが、
当時戦後の統制経済下にあって、清酒製造に用いる米も当然ながら割当て制で、
日本においては主食でもある米は、戦後復興の中で慢性的な食料不足にあり、
酒造りにではなく食用に優先的に回されるのが常であって、
どの蔵も米の確保には東奔西走の毎日を過ごしていた様です。
その中、昭和27年という年には、6月に九州で1000人を超す死者を出す豪雨、
更に7月には近畿地方が特に大きな被害を受ける冷害に見舞われたそうです。
結果として至る米不足は酒造業界にもおよび、
生産量の減少は避けられないことと言われていました。
しかしながら、国税庁は翌昭和28年度の生産石数予算として、
前年に比べての3〜5%の増石を見込んでいたそうです。
(日本の酒行政は基本的に国税庁の管轄となります)
米の割当が減るのに、生産量を増やす?
いったいどういうことなのでしょうか?
ここにその本から拾い上げた数字で以下のものを表記します。
(1石は10斗、更に10斗は10升で、1石は100升、つまい1升瓶百本の180ℓ)
昭和24年度、使用原料米「49万4千石」、うち三増酒分「9千石」
昭和27年、使用原料米「91万石」、うち三増酒分「19万4千石」
この数字から単純に言えることは、三年間で原料米の使用が2倍近くになる間に、
三増酒は21倍以上にその生産量を増やしていることです。
出来上がった清酒全体の生産量から言えば、三倍に伸ばせる三増酒の比率は一層増し、
昭和24年度には全体の5%に過ぎなかったものが、
昭和27年度には半分近くの45%にまでのぼっている点です。
これはその時代の米不足、食料不足から生まれた、三増酒という知恵が
当時の要請であったとはいえ、あまりも大きな数字の伸びです。
そして、米が不作の次の年である昭和28度の生産石数予算が何故に
増石を見込むのか、おぼろに見えて来ます。
三増酒の増石により、米の不作を補おうとする方策を選ぶということなのですが、
話はどうもそう単純な問題ではないようです。
以下はまた、その本からの抜粋です。
国税当局は「原料米割当数量の如何によっては、大幅増石やむを得ず」
大手メーカーは「品質保持のため総石数の半分を上回ってはならない」
中小メーカーは「大衆酒としての三増酒は増石すべきである」
技術者は「原料米割当数量の如何に関わらず、一定の線を越えるべきではない」
と四者の大まかな意見が記されています。
なんと大手のメーカーは三増酒の増石に反対を唱えているのです。
逆に中小のメーカーは、蔵を経営してくだけの米の確保が難しいのでしょうか、
増石を訴えているのです。
今の図式ならば、中小の手作りの地酒メーカーに対して、大部分を機械の導入による、
大量生産でパック酒を供給している大手メーカーは、清酒業界の衰退の
ヒールとして槍玉に挙げられるのが常なのですが、
当時は、一部技術者と一緒になって、三増酒の増石に反対をしていたようです。
確かに現在のパック酒に詰められているお酒は、あまり褒められたものではないですし、
品質は随分向上したとはいえ、戦後の三増酒生産の延長線上にあるものです。
しかし、それは単にメーカーの自己本位な利潤追求のみによって
もたらされたわけではないということが、この本の文章からは読み取ることができます。
国税当局側である旧大蔵省、つまりは政府側が税収の減少を憂えた結果として、
また戦後の国家予算編成のままならない復興期にあって、酒税の確保のために、
三増酒の更なる増石を目論んでいたことがわかってくるわけです。
いつの時代にも翻弄されるのは庶民の生活なのかもしれません。





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GO

にごりを、みて思い出しました。
百楽門のどぶろくって美味しいですよね。
by GO (2007-10-17 11:15) 

つーたん

GO様、毎度でございます。
百楽門のどぶろく、確かにさっぱり上手いのですね。
ここの菩提もとのにごり酒も美味しいですよ。
ちなみに葛城酒造さんは千代酒造の本家でもあります。
by つーたん (2007-10-19 13:28) 

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