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『美味しい料理の哲学』広瀬純 [名著蛇行歴]

パセミヤのよっちゃんご推薦の本を読み終えました。

「続き」は読まない方が得策かもしれません。

本を読む行為は毛織物を編むような縦糸と横糸を巧妙に仕込んでいく作業に似ていて、
ある本を読んで上手く理解出来無かった事柄が、
別の本を手に取ることによって重ね合わされた二つの読書により、
埋もれていた新しい絵柄が浮かびがって来る様な、
鮮烈な快感を伴うことがあります。

広瀬純さんによる『美味しい料理の哲学』(河出書房新社)とは、
そう言った「読むことの快楽」をもたらしてくれる書物の一つであるといえます。
フランス現代思想の中心的存在であるドルゥーズによるキー・タームを使い、
様々な形で存在する料理の有り様を解読していく作業をしているのですが、
この本を読んでいくと、いつも跳ね返されていたドルゥーズに対して、
逆に食い下がることができるのではないかと、ささやかな希望を抱き始めています。

全ての料理を「骨付き肉」としてとらえ、
「“肉”の持つ潜在的な“美味しさ”を引き出す為の“骨”の役割」
というものを検証して行きます。
例えば様々な種類を持つパスタは同じ味のソースを、違った“美味しさ”の一皿に導きます。
ここでは、パスタとは「骨」であり、ソースとは「肉」であるわけですね。
粘性が低く流動性の高いソースには細いパスタを、
逆に粘性が高く絡み易いソースには太いペンネのようなものを、
あるいはラザーニャにはそれに見合ったソースを用いて、
それぞれの料理に「美味しさ」という表象が与えられることになります。

うん?
「骨」と「肉」とその現れとしての「美味しさ」、「質料」と「形相」?
これって形而上学?

広瀬さんのこの本は、彼が教鞭をとる大学での講義をもとにしています。
ネット上に、その講義録もインターネット上で公開されています。
料理の比較解剖学

以下は、簡単にノートです。
展開されているネタの触りを簡単に記しておきます。
食に関して興味のあるひとは嵌ること間違い無しです。
それぞれが関係している参考文献等も記しておきます。

第一講 イエスの磔刑図とは骨付き肉の美意識に支えられている。
    それは焼き鳥が串に刺されてこそ完成するのと同じである。

    チマブーエ「キリスト磔刑図」
    エドガール・ドゥガ「浴後、体を拭く女」
    『焼き鳥「門扇」、一代限り』岩本一宏
 
第二講 パーツあるいは部分の形状から全体を規定するのではなく、
    パーツ同士の関係性、部分と全体の構造から全体を規定する。
    「生命」そして「料理」とは一つの紙から折られた折り紙である。
    「在る」とは「変身=変態」の過程である。

    19世紀のジョフロワ・サン=ティレールとキュビィエの論争
    『言葉と物』ミシェル・フーコー

第三講 「生命がある」こととは「外界と繋がっている」ことである。
    ヌーヴェル・キュイジーヌとは調理することが外界と繋がっていること、
    料理が自然と繋がる一つの過程であることを再認識させるものである。
    ロブションやボキューズと並び称される料理人である
    フレディ・ジラルデがいう「自然発生的料理」とは
    いわばモダンジャズの即興演奏のようなものであり、
    レシピ=コードからの逸脱がある種のダイナミズムを生み出すともいえる。
    ファーストフードによる世界の食の均質化とは、
    自然という多様体に連結し、料理の発生の一過程に過ぎなかった厨房の存在を、
    自然による影響を排除し、世界を厨房化することにより、
    自然を支配しようとする領土侵犯の行為である。
    皮肉なことに、これらをもたらしたと言える低温配送等の流通革命とは、
    一方でスローフード運動とも深く関係付けられていて、
    旬の食材を活かすという厨房と自然の連結を強化をもたらすことにもなっている。
    
    『料理の哲学』三國清三

第四講 東南アジアにおける「サテ」、中近東の「シシケバブ」、
    ブラジルの「シュハスコ」、カーネルサンダーズの「フライドチキン」等
    世界中には別の形での「骨付き肉」は普遍的に存在するし、
    また一度引きはがした肉をもう一度骨付きにして提供される
    お刺身で行われる姿造り、カニ爪フライ等の変則バージョン、
    更にスペインの「ピンチョス」等においては串だけでなく、
    小さなバケットのようなタルトレットが串の代わりをしている場合等、
    串を実際に使わない場合でもその骨付き肉の作用を利用してるものもある。
    
第五講 同じ鶏肉を使った料理として、「焼き鳥」と「フライドチキン」では、
    引き出された美味しさは別様のものであって、
    ひつとの食材の持つ美味しさとはその素材の中に潜勢力として、
    無限の可能性を秘めているともいえる。
    それはポップ・ミュージックにおける「リミックス」のようでもあり、
    編曲、演奏を通して新しいものを生み出すことが可能であることと同じである。

第六講 パスタ料理における骨と肉の関係に関しての考察。
    ソースの粘性により使い分けられるパスタ、
    あるいは、ソースの粘性がもたらす速度感について。
    “速さ”の感覚とは“速度”ではなく“加速度”である。
    「乾燥パスタの誕生」と「アル・デンテ」

第七講 カフカ『変身』のグレゴール・ザムザが昆虫になるとは、
    脊椎動物から甲殻動物への変身であり、このことは、
    肉を骨の外に持つものからか内に持つものへの変身である。
    鮎の塩焼きとは、骨の外に肉を持つ存在から、
    パリパリに焼けた皮がもたらす美味しさをもたらすものへと向かった、
    骨を肉の外に持つ甲殻類への変身である。
    海老フライやエビのてんぷらとは、骨を外に持つ甲殻類が、
    パン粉の衣という新しい骨を得る別の甲殻類への変身であり、
    野菜を揚げた天ぷら等も甲殻類タイプの骨付き肉の発生である。
    「わらさのトマトサラダ」の場合。
    「クレーム・ブリュレ」とは表面を焦がすことによる骨を作り出し、
    「鰹のタタキ」においてもまた、皮の部分ではあるが
    肉を焦がすことにより骨を作り出す、甲殻タイプの骨付き肉を生み出している。
    これらはいわば肉と骨の分化作用である。
    北京を中心とする中華料理における「面食(ミアンシ)」とは、
    中身の種である肉を骨として皮で包むことによる、骨付き肉であり、
    また麺食もまた、パスタ同様に様々な美味しさ引き出す為に
    多様な種類を持つ骨付き肉である。
    また「面食」は典型的な「折り紙」の哲学でもって提供される料理である。

    『「分とく山」野崎洋光が説く、美味しい料理の方程式』
    ガスケ『セザンヌ』
    ウー・ウェン『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』 

第八講 「たこ焼き」における骨と肉の発生は、
    最初は肉になる部分と骨になる部分が未分化のまま(生地)で、
    調理のプロセスである生地を焦がす行為により、
    カリリとした皮となる骨と、ふわりとした中身の肉の部分に分けられる。
    また調理における量的な差異は質的な差異とは単純に結びついていない。
    ステーキを焼く行為においては、「レア」「ミディアム」
    「ウエルダン」のそれぞれにおいてもたらされる美味しさの質は
    焼く時間の長さ(同じ尺度)によって差異を与えられてはいるが、
    それぞれの美味しさの質的差異は同じ尺度で計れるものではない。

第九講 入れ子様の骨付き肉。
    トンカツとは、豚肉と衣による骨付き肉であり、
    カツの卵とじとは、トンカツと卵による骨付き肉であり、
    トンカツとは カツの卵とじとごはんによる骨付き肉である。
    肉は骨になる、骨は肉となる変身の可能性に開かれた存在である。
    「個体化」された存在と「前個体的な」存在

第十講 スペインのカタルーニャ地方にあるレストラン「エル・ブジ」
    のシェフフェラン・アドリアにおける料理の挑発。
    「メヌ・デギュスタシオン=試食のコース」
    「デコンストラクション=脱構築」
    「ガストロノミア・モルキュラッル=分子ガストロノミー」
    骨と肉の再構成、あるいは時間軸への分解。
    「パン・コン・トマテ」、「グリンピースのスープ・ミント風味」
    「カリフラワーのクスクス」、「シャンティイ・チョコレート」
    擬態によるもどき料理の可能性。

    山本益博『エル・ブリ 想像もつかない味』

あくまで、メモですので、中途半端かな。


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kousuke

おぉ!難しい本をお読みなんですねー(><)
でも僕もちょっと久しぶりに読書がしたくなってきました(^-^)
by kousuke (2007-08-31 03:44) 

つーたん

kousuke様、いらっしゃいませ。
ややこしいお話にお付き合いいただきまして、
有り難うございます。
そうです、読書の秋がもう直ぐですよ。
by つーたん (2007-08-31 09:22) 

みるく

すごーい!
難しい本はすぐに眠気が襲ってきます(笑)
by みるく (2007-09-05 22:25) 

つーたん

みるく様、いらっしゃいまし。
密かに御勉強しましたよ、というのを自慢したいのです。
by つーたん (2007-09-07 19:37) 

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